BCPとは「Business Continuity Plan」の略語で、災害などの緊急事態が発生した際、事業への影響をなるべく少なくし早期に復旧できるように対策方法を計画しておくことを指します。
この記事ではBCP対策の目的やメリット、IMP・BRP・BCM・防災との違いも分かりやすく解説していきます。
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どうしてBCP対策が必要なのか

一般的に、平常時→災害等発生→初動対応→復旧対応というフローを策定、これを社内に浸透させる訓練や研修を含めてBCP対策と呼ばれます。元々、地震や台風などの自然災害に見舞われやすい日本では、以前よりBCPの議論が進んでいましたが、2011年東日本大震災や2020年新型コロナウィルス感染拡大を経て、あらためてBCP対策に注目が集まりました。
昨今では自然災害だけでなく、国家間の紛争、サイバー攻撃、情報漏洩、パンデミックといったような様々なリスクが企業を取り囲んでいます。こういった事態に直面した際、場当たり的に行動するのではなく、いち早く事業を復旧させるため、事前にBCP対策を練っておくことが大切です。
物流におけるBCP対策においては以下のコラムを参照ください。
BCP対策をしておくことのメリット

事前にBCP対策をしておくことのメリットは、いざという時迅速に対応できることだけではありません。社内外にもたらす3つのメリットについて以下ご紹介いたします。
事業の優先度・重要度を再確認できる
BCPの策定は単なる災害対策ではなく、自社理解や業務の見直しとしての側面も兼ね備えています。たとえば、災害時にいち早く復旧する必要がある業務はなにか、どこを本部として連携を図るかといった想定は、必然的に業務や部署の優先度・重要度を確認する工程を伴います。
根幹となる事業はもちろんのことながら、実はバックオフィスの復旧も優先度が高かったり、自宅待機の可能性を考え安否確認やテレワークのシステムを導入する必要があったりと、災害等を想定することで初めて気付くものもあるでしょう。
ステークホルダーからの信頼を得られる
緊急事態に対してBCPを策定していると分かる企業は、株主や投資家からも安定性や信頼性を高く評価される傾向があります。仕入先や取引先、社員や企業の所在する地域に対して、どんなリスクが生じうるかを事前に想定し対策を講じることは、企業が自社の事業内容や非常時のウィークポイントをきちんと理解しているということでもあります。
昨今ではDCP(District Continuity Plan)と呼ばれる、災害時等に地域で連携して、ライフラインや重要な施設を復旧させる計画の策定も注目されているため、事業内容や企業規模、立地等によってはこういった視点から自社を捉えることも必要です。
社内組織編制・コミュニケーションの改善
BCP策定のためには、部署や支社をまたいだコミュニケーションが欠かせません。実際にBCP対策チームを編成し、仮説と対策を考えたり、ヒアリングを重ねたりするなかで、組織編制やコミュニケーションの取り方から改善できる点を見つけることができる場合もあります。
自然災害のように物理的な影響を被るものから、サイバー攻撃や情報漏洩といった目に見えないリスクも存在するため、危機管理体制やコンプライアンス部門とも連携が必要です。
BCPと類似する用語(防災・IMP・BRP・BCM)との違い

BCPとよく似た言葉、または並べて挙げられる言葉について、それぞれ解説していきます。
防災
BCPが「非常時の被害を最小限に抑えること」「いち早くもとの状態に復旧させること」を目的としているのに対し、防災は「災害等の発生を未然に防ぐこと」を目的としています。そのため、たとえば「出社ができない事態を想定して一斉にテレワークを行う訓練」はBCP訓練、「火災発生時に消火器で消化する訓練」は防災訓練といえます。
IMP
IMPとは「Incident Management Plan」の略語で、日本語では「初動対応計画」と訳されます。緊急事態が起きてから数時間から数日以内の、特に緊急性の高い事柄に対する計画でBCPとは関連性が高く、この後紹介するBCPフローの初期段階としても転用可能です。
BRP
BRPとは「Business Recovery Plan」の略語で、日本語では「事業復旧計画」と訳されます。基本的にはBCPと似た内容ですが、BCPよりも長期的な視点で事業の全面復旧を目指しています。BCPがいち早く事業を復旧・継続させることを目的としているのに対し、BRPは緊急時発生前と同じ水準まで復旧させることを目的としています。
BCM
BCMとは「Business Continuity Management」の略語で、日本語では「事業継続マネジメント」と訳されます。BCMでは、BCPを立案することはもちろん、研修や訓練をおこなったり、マニュアルを定期的に見直し・改訂したりといった、BCPが社内に浸透するための一連の施策も含みます。
緊急事態発生時のBCPのフロー

実際に緊急事態が発生した際の、BCPのフロー例は以下のとおりです。
❶緊急対策本部を設置
緊急事態が発生した直後は、状況確認や情報収集・発信など様々な分野で早急な対応が求められます。そのため、あらかじめ対応する分野を決めた対策本部メンバーを決めておくとよいでしょう。対策本部を指揮系統の中心として、全体の統率を図ることができます。
❷重要書類の保護
対外的・社内的に重要な書類(データを含む)を保護することで、情報漏洩などの二次的なリスクを防ぐことができます。また、復旧時に各種書類を提出する場面が考えられることから、重要書類の保護によって復旧時期を早められる可能性があります。
❸被害状況の確認
優先度・緊急度を決めるために最も重要なのが被害状況の確認です。特に災害時は地域全体での連携が必要な場合もあるため、企業周辺のライフライン・交通インフラ・通信インフラも確認が必要です。人、建物、設備、インフラ、商品や在庫、情報・データ、お金といった企業のリソースに対する損害状況を迅速に確認できるよう、あらかじめシステムを導入したり、状況の確認手順を明確にしたりしておきましょう。
❹事業継続・復旧活動の開始
BCPが発動したら本部の指示に従って、訓練や計画のとおりに被害状況の把握・安否確認・データの保護等を進めていきます。また、宿泊や長時間の待機が必要な場合を中心に、災害時では緊急でものが必要になることもあり得るので、日ごろから非常時用の財源を確保しておくことが重要です。
❺社員や顧客、取引先への対応
従業員が重大な被害を受けた場合は、状況が安定するまで住まいや食料を提供することも考えられます。また近隣に居住している従業員や、逆に被害地域から離れている従業員には積極的に協力を依頼し、復旧に協力してもらうよう指揮を執りましょう。同時に、顧客や取引先等、事業に関係のあるステークホルダーには対応進捗を共有すると、不安定な状況に配慮してくれたり、諸事了承を得られやすくなったります。
また、外国語が主要言語の従業員が在籍する場合は多言語対応の安否確認システムを導入したり、会社に人の出入りが多い場合は災害時に来客がいる場合も想定したりする等、自社の社員や顧客、取引先にどんな特徴があるかを把握しておくことが大切です。
BCPを策定するためのフロー

では、BCPの策定のフローを解説していきます。以下5つの項目について順に検討しましょう。
❶自社にあった方針・項目を決める
たとえば内陸に位置する企業は、津波より土砂災害や河川氾濫の対策をした方が良いように、企業の土地柄や事業内容その他によって、BCPの内容も個々に変化していきます。自社HPやSNSを展開している場合はサイバーセキュリティ対策が重要になりますし、逆に情報発信の場を持っていない場合は緊急時の経過報告等をどうやって行うか検討する必要があります。自社にはどのような特徴があるか、地理・事業内容・従業員・取引先や顧客などの点からよく検討しましょう。
❷社内体制を整える
緊急事態の内容によっては警察や消防へ連絡したり、専門家に分析を依頼したりと、BCP立案には社内の様々な知見の集約と分担が必要になります。また、緊急時に被災地に対して食糧供給を行うことを自らの社会的使命としている「山崎製パン株式会社」のように、BCP対策を策定する上で企業理念や経営方針の観点が関わる場合もあります。そのためそれぞれの要素を持つ従業員をまんべんなく集めたうえで、対策本部や運営委員会を設置するとよいでしょう。
部署や支社といった観点はもちろん、性別・世代・国籍・家族構成・日常的に使用する言語・障がいや疾患、その他特筆事項の有無を検討することで、非常時に想定外の事項や追加の対応が発生する確率を大幅に減らすことができます。場合によっては、事前に防災訓練やネットリテラシーの研修を受けておく必要もあるかもしれません。
❸優先事業を決める
基幹となる主力事業はもちろん、緊急時の安否確認や情報網構築には情報システムやインフラの復旧が欠かせません。第一に復旧させる必要がある対応と、緊急ではあるものの第一ではないもの、その後副次的に発生していくものなどを、重要度と想定される時系列から整理していきましょう。
❹仮説をもとに案を策定、発動基準や体制を決める
ここまで自社や事業内容、従業員にどのような特徴があるか、また対応の重要度や時系列を整理してきました。この段階では、それぞれにどう対応していくかをメンバー内で議論しながら決めていきましょう。また、たとえば地震であれば「震度いくつ以上をBCP発動の条件とするか」といったように、発動条件を定めておくことも大切です。緊急時にどこの情報を参照するか、それをどういったルートで社内に展開するか等もこの段階で決めておくとよいでしょう。
❺社内で共有する
安否確認システムや緊急用情報伝達ルートのように、非常時にのみ使用されるものは特に、資料共有だけでなく実際の訓練やシミュレーションが必要です。また、1年や半年ごと等、定期的に訓練を行うことで、実際の状況に近いフィードバックを得られるというメリットもあります。BCP自体もこれらをもとに定期的に見直し・更新するようにしましょう。
まとめ
「緊急時に備えるため」という側面が取り上げられやすいBCPですが、実際に策定するとなると事業や社内体制、各種システムの見直しを伴うことから、自社の現状やウィークポイントを把握できるという大きなメリットを有していることが分かります。BCP策定と同時に、各種プランの契約状況を整理したり、社内体制をより効率化させたりすることができれば、さらにメリットは大きくなっていきます。
ここで得た情報を財務改善や事業計画に転用することも可能ですので、ぜひ積極的に取り組んでみることをおすすめいたします。
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