政府は2024年4月に成立した改正法案「流通業務総合効率化法」の中で、2026年から一定規模以上の発荷主・着荷主に「物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)」の選任が義務付けられることが決定しました。しかし、CLOは日本ではまだ馴染みの薄い役職であり、その役割や課題については十分に知られていないのが現状です。
本コラムでは、CLOに期待される役割や課題について解説し、その理解を深めていきます。
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CLOとは

CLO(Chief Logistics Officer)とは、企業の物流戦略全般を統括する役職です。その役割は、単なる物流管理者に留まらず、企業の成長と持続可能性を実現するための戦略的リーダーとして位置づけられます。
CLOは、物流全体の効率化を図るだけでなく、物流戦略を企業経営の中核に据え、顧客価値の向上や新たな競争優位性の創出が求められます。具体的には、輸送効率の改善、在庫管理の最適化、配送精度の向上などを実現するため、高度な意思決定と実行支援を担います。
また、環境負荷の低減や持続可能な物流の実現という重要な役割があります。カーボンニュートラルを目指す企業が増加する中、物流のグリーン化は不可欠であり、CLOがその推進力となる必要があります。さらに、物流分野におけるコスト削減と付加価値の向上を同時に達成するために、CLOは戦略的な視点を持って全体最適化を図ることが求められています。
例えば、物流拠点の統合や輸送ルートの最適化を進めることで、コストを削減しつつ顧客満足度を向上させる取り組みが挙げられます。このように、CLOは企業経営と物流の橋渡し役として、企業価値の向上にとって重要な存在です。
CLOが注目される背景
CLOが注目される背景には、物流業界全体が直面する構造的な課題が挙げられます。日本の物流業界では、労働力不足や輸送コストの高騰、環境規制の強化といった深刻な問題が顕在化しています。特に、「2024年問題」は、企業にとって解決が急務の大きな課題となっています。
こうした課題に対応するため、政府は「流通業務総合効率化法」を改正し、2026年から一定規模以上の企業に対して物流統括管理者の選任を義務付けました。これにより、企業は従来の物流管理の枠を超え、企業経営としての戦略的な視点で物流の改革を進める必要に迫られています。つまり、物流部門やSCM部門で完結する改善ではなく、企業として物流やサプライチェーン全体の効率化を図ることが求められています。
また、Eコマースの急速な普及に伴い、迅速かつ柔軟な物流対応がますます重要になっています。消費者からは「即日配送」や「柔軟な返品対応」など高度なサービスが求められており、それに応えるためには、効率的かつスケーラブルな物流ネットワークの構築が不可欠です。この結果、物流は単なるコストセンターではなく、企業の競争力を左右する戦略的要素として再評価されています。
さらに、物流分野におけるデジタル化の進展も、CLOが注目される理由の一つです。AIやIoTなどの先進技術を活用することで、輸送ルートの最適化や在庫管理の精度向上が可能となり、従来の方法では達成できなかった効率化を実現しています。
このように、物流業界の課題解決や新たな成長機会を見据えた戦略的な役割が、CLOが注目される背景となっています。
CLOの重要な役割
CLOは、物流戦略と経営戦略を統合し、企業全体の競争力を強化する役割のことです。従来、物流はコスト削減や効率化を目的とした業務領域として扱われてきました。しかし、物流は企業の競争力にかかわる最重要な部門となり、CLOには物流業界全体が抱える課題解決と物流を単なるコストセンターから企業価値を創出する戦略的要素へと引き上げる役割が求められています。
物流戦略と経営戦略の統合には、以下の重要な要素が含まれます。
顧客体験の向上:迅速な配送や柔軟な返品対応を通じて、顧客満足度を高める
収益性の向上:効率的な物流構築と運営によりコストを削減し、収益を拡大する
持続可能性の推進:環境負荷の軽減や効率的な物流を実現し、サステナビリティ目標を達成
これらを実現するために、CLOは全社的な視点で物流戦略を設計し、部門間の連携を強化する必要があります。特に、営業、調達、製造部門と密接に連携し、サプライチェーン全体の最適化を図る役割を果たします。例えば、CLOが主導することで、販売計画と在庫管理を統合し、過剰在庫を削減すると同時に欠品リスクを低減することが可能となります。
しかし、営業、調達、製造部門の間で十分な連携が取れていないケースが多く見られます。このような状況下で、CLOには物流とサプライチェーンの観点から部門間を「繋ぐ」役割が求められています。
CLOは経営戦略と物流戦略を結びつける要として、企業の持続可能な成長を支える重要な存在です。特に、急速に変化する市場環境において、CLOのリーダーシップは企業競争力の鍵を握る存在となるでしょう。
CLOに求められる主な業務

CLOが取り組むべき具体的な業務やポイントとして以下4つが挙げられます。
- 現状把握の重要性
- 戦略・施策の立案
- 実行と調整
- 持続可能な物流の推進
それぞれについて詳しく解説します。
1.現状把握の重要性
CLOが最初に取り組むべき重要なステップは、企業全体での物流の現状を正確に把握することです。物流は企業の競争力を左右する重要な要素であり、その改善には現状を正確に可視化することが不可欠です。現状把握には、社内データを活用した輸送量、在庫状況、配送精度などの分析が含まれます。さらに、荷待ち時間や荷役作業時間といった、システムに蓄積されていない情報をデータ化し、分析範囲を広げることも重要な取り組みです。
CLOはこれらのデータを基に、自社の物流課題を特定し、課題解決の優先順位を明確化します。このプロセスは、企業全体で取り組むべき物流戦略の基盤を構築する上で欠かせません。具体的には、在庫管理の適正化や拠点配置の見直しといった改革レベルの施策から、輸送ルートの最適化による積載率の改善、倉庫作業の効率化といった運用改善レベルの施策までが含まれます。
特に、CLOの現状把握は戦略立案に取り組むための第一歩として極めて重要な役割を果たします。
2.戦略・施策の立案
現状分析を基に、CLOは中長期的な物流戦略を策定します。この際、現状把握の結果をどのように捉えるかが重要です。現状の課題を把握した上で戦略を立案しますが、中長期的な視点に立った物流戦略では、時間軸を考慮する必要があります。
現時点の課題が5年後にどのように変化するのかを見据え、企業の経営戦略や計画との連携が不可欠です。5年後の自社物流に求められる要件を明確化し、その実現に向けた施策を策定する必要があります。さらに、作業人件費やトラック輸送費の変動など外部環境の変化予測を反映させ、課題の将来的な変化を可視化することも重要です。
また、現在と将来の課題を解決する戦略を立案する上では、前提条件を整理することが重要です。ここで留意すべきなのは、現在の前提条件をそのまま将来の前提条件として引き継いではいけない点です。企業の経営方針(ミッションやバリュー)に照らし、維持すべき要素は前提条件として設定します。一方で、現時点では変えられないが、将来的に変えるべき要素や変える可能性のある要素もあるため、これらを前提条件から排除する必要があります。
このように、現状把握を基にした戦略立案では、現状と将来の課題を解決するために、高度な経営判断が求められます。CLOは、このような戦略的視点を持ち、企業の経営戦略に連動した物流施策を設計する必要があります。
3.実行と調整
策定された戦略を実行に移す際、CLOは全社的な調整役を担います。物流部門だけでなく、販売部門や調達部門とも密接に連携し、組織横断的な目標達成を目指します。これにより、企業全体の経営目標と一貫性を持った物流戦略を実現することができます。
具体的には、販売計画と在庫管理の統合と最適化を進めることで、過剰在庫を削減しつつ欠品リスクを抑える施策が挙げられます。販売状況は刻々と変化するため、販売部門と物流部門の密な連携がなければ最適化は困難です。このような状況に対応するため、リアルタイムデータの活用やデジタルツールの導入もCLOの意思決定において重要な要素となります。
さらに、物流の現場で発生する課題にも柔軟に対応する必要があります。例えば、CLOは物流事業者との協議を主導し、運送契約や作業内容の見直しを進めます。これにより、物流の安全性と効率性を両立させ、現場の課題解決を推進します。
CLOの役割は、戦略の実行をモニタリングしながら必要に応じて調整を行い、企業全体の競争力を高めることにあります。
4.持続可能な物流の推進
CLOは、持続可能な物流の実現に向けた取り組みをリードすることも重要な役割です。持続可能な物流の対象範囲は拡大しており、環境問題への対応、自然災害への備え、2024年問題に起因する物流原価の上昇への対策が含まれます。
環境問題への対応では、カーボンニュートラルを目指した施策や環境負荷の少ない輸送手段の採用が求められています。モーダルシフトの推進や共同配送を活用することで、CO2排出量の削減ができるでしょう。また、物流施設におけるエネルギー効率化や再生可能エネルギーの活用も不可欠な要素です。これらの取り組みにより、物流オペレーション全体の環境負荷を低減することが可能になります。例えば、ある企業では太陽光発電を活用した物流センターを建設し、年間エネルギー消費量を30%削減することに成功したという事例もあります。
さらに、自然災害への備えも重要な課題です。多くの企業が事業継続計画(BCP)を設定していますが、有事の際にどの程度実効性が発揮されるかには改善の余地が残されています。CLOは、災害時に迅速かつ効果的に対応できる物流体制を構築し、企業の安定したサプライチェーン運営を支える役割を果たしましょう。
まとめ
CLOは、物流戦略と経営戦略を統合し、企業の競争力を高める重要な役割を担っています。労働力不足や環境規制など、物流業界が直面する課題に対応しながら、現状把握、戦略立案、実行・調整、持続可能な物流の推進を通じて、企業全体の物流改革を主導します。CLOのリーダーシップが、物流を単なるコストから戦略的要素へと変革し、企業の持続可能な成長を支える鍵となるでしょう。
次の記事ではCLOに重要なデータドリブン物流経営の進め方について詳しく解説します。
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