企業が持続可能な社会を目指して環境経営を推し進めていく上で、TCFD、SBT、CDPなど様々な国際的な枠組みへの対応が求められますが、最も基本的なところでは、事業活動においてエネルギーの使用をできるだけ抑えるための「省エネ」への取り組みが第一歩と言えます。
日本においては、40年以上も前から「省エネ法」という法律があり、一定規模以上の事業者エネルギー使用状況と削減目標の設定について毎年の報告の義務を課してきました。今回は「省エネ法」についての概要と対象となる分野、エネルギーについて解説します。
省エネ法とはなにか
「省エネ法」は正式名称を「エネルギー使用の合理化等に関する法律」と言います。その成り立ちと目的について説明します。
参考:資源エネルギー庁 省エネ法の概要
省エネ法の目的とは
省エネ法は、1973年の第四次中東戦争によって発生した第1次オイルショックを契機に1979年に公布された法律です。
オイルショックでは石油価格の高騰によりインフレが発生したため国民の消費が低迷し、大型の公共事業も凍結や縮小されるなど日本経済に大きな打撃を与え、戦後続いた高度成長期の終焉のきっかけとなりました。
その反省を踏まえて、省エネ法では石油を中心としたエネルギーの使用の合理化と、電気需要の平準化を進めることを目的としています。
省エネ法の概要
省エネ法は、企業活動での電気やガス、ガソリンなどの燃料によるエネルギー使用量を原油換算量で表し、合理的なエネルギー利用を促す制度です。「原油換算」というところが、オイルショックを契機に制定された名残です。
算出や報告は原則として努力義務ですが、特定の業態で一定規模以上の事業者は国へ年1回報告する義務があります。
省エネ法の対象分野
省エネ法には「直接規制」と「間接規制」の2種類があります。
直接規制は、一定規模以上の工場・事業場及び運輸分野のエネルギー使用者が対象となります。これは、工場等(工場又は事務所その他の事業場)の設置者や輸送事業者・荷主に対し、省エネ取組を実施する際の基準を示し、計画の作成および提出の指示を実施します。
間接規制としては、機械器具等(自動車、家電製品や建材等)の製造又は輸入事業者を対象とし、機械器具等のエネルギー消費効率の目標を示して達成を求めています。
このコラムでは、直接規制を受ける事業者と、課される義務の内容について説明します。
工事・事業場における省エネ法
〈義務の対象〉
特定事業者(エネルギー使用量が原油換算で年1,500kL以上ある事業者)
〈義務の内容〉
① エネルギー管理者等の選任義務
省エネ法で定められる特定事業者は「エネルギー管理統括者」と「エネルギー管理企画推進者」を1名ずつ選任する必要があります。
このうち「エネルギー管理企画推進者」の選任には、一般財団法人省エネルギーセンターが実施する「エネルギー管理講習」を修了している必要があります。(※)
参考:一般財団法人省エネルギーセンター エネルギー管理講習「新規講習」「資質向上講習」
※ より規模の大きい「第一種・第二種エネルギー管理指定工場等」では、「エネルギー管理者」「エネルギー管理員」の選任が必要となります。詳細は、“資源エネルギー庁省エネポータルサイト 事業者の区分と義務”をご覧ください。
② エネルギー使用状況等の定期報告義務
特定事業者は、毎年度のエネルギーの使用の状況等について、翌年度7月末日までに事務所(通常は本社)の所在地を管轄する経済産業局に報告する義務があります。
③ 中長期計画の提出義務
上記の定期報告書と併せて、中長期(3〜5年)的な計画を作成し提出する必要があります。目標として求められるのは、5年度間平均でエネルギー消費原単位を年1%以上低減することです。
運輸における省エネ法
省エネ法では、工事・事業場における特定事業者と同様に、運輸部門でも「特定貨物/旅客輸送事業者」と「特定荷主」には下記の義務が課されます。
〈義務の対象〉
特定貨物/旅客輸送事業者(保有車両がトラック200台以上の事業者)
〈義務の内容〉
①計画の提出義務
➁エネルギー使用状況等の定期報告義務
〈義務の対象〉
特定荷主(運送会社へ委託する輸送量が年3,000万トン以上の事業者)
〈義務の内容〉
①計画の提出義務
➁委託輸送に係るエネルギー使用状況等の定期報告義務
事業者クラス分け評価制度
省エネ法の定期報告書等の内容により、特定事業者は下記のランクに区分されます。
- S(優良事業者)
- A(更なる努力が期待される事業者)
- B(停滞事業者)
- Cクラス(要注意事業者)
Sクラスの事業者は、優良事業者として経済産業省のホームページで公表されるばかりでなく、環境省や経産省の各種補助金申請の条件になるなどの優遇制度もあります。
産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)
ベンチマークとは指定された業種および分野について、事業者が中長期的に達成すべき省エネ基準(ベンチマーク)です。省エネ法では各業界で上位10〜20%程度のトップクラス事業者が満たす水準を、目指すべき水準として設定しています。
業界の標準的な水準と比較して、自社の省エネへの取り組みを相対評価するための数値と捉えてください。ベンチマークが指定されている業種および分野は、下記の19業種および分野です。
1A 高炉による製鉄業
1B 電炉による普通鋼製造業
1C 電炉による特殊鋼製造業
2 電力供給業
3 セメント製造業
4A 洋紙製造業
4B 板紙製造業
5 石油精製業
6A 石油化学系基礎製品製造業
6B ソーダ工業
7 コンビニエンスストア業
8 ホテル業
9 百貨店業
10 食料品スーパー業
11 ショッピングセンター業
12 貸事務所業
13 大学
14 パチンコホール業
15 国家公務
参考:資源エネルギー庁省エネポータルサイト 事業者クラス分け評価制度および産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)
省エネ法の対象エネルギー
省エネ法の監視対象となるエネルギーは、以下に示す燃料・熱・電気の1つです。
バイオマス等の廃棄物からの回収エネルギーや風力・太陽光等の非化石エネルギーは対象となりません。ただし、補助金活用なども考慮すると、省エネ法対策に取り組む企業にとっては、太陽光発電の設備導入は省エネ実現だけではなくコストメリットも享受できるケースがあるため、効果的な重要施策の一つと言えます。
省エネ法における燃料
- 原油及び揮発油(ガソリン)、重油、その他石油製品(ナフサ、灯油、軽油、石油アスファルト、石油コークス、石油ガス)
- 可燃性天然ガス
- 石炭及びコークス、その他石炭製品(コールタール、コークス炉ガス、高炉ガス、転炉ガス)であって、燃焼その他の用途(燃料電池による発電)に供するもの
省エネ法における熱
- 上記に示す燃料を熱源とする熱(蒸気、温水、冷水等)
〈対象とならないもの〉
太陽熱及び地熱など、上記の燃料を熱源としない熱のみであることが特定できる場合の熱
省エネ法における電気
- 上記に示す燃料を起源とする電気
〈対象とならないもの〉
太陽光発電、風力発電、廃棄物発電など、上記燃料を起源としない電気のみであることが特定できる場合の電気
その後、2022年3月1日に省エネ法の改正に関する法律案が閣議決定されたことを受け太陽光発電、風力発電など従来対象外とされていた非化石エネルギーも電気の対象に追加されました。
参考:経済産業省 公式HP内ニュースリリース
まとめ
日本では、CO2排出量を2030年に2013年と比較して46%削減すること、2050年にはカーボンニュートラルを達成するということが政府目標として閣議決定されており、さらなるCO2削減対策が求められているところです。
旧来からある省エネ法は、石油を中心とした化石燃料の使用を抑えるための法制度であり、結果として化石燃料由来のCO2を削減することにつながります。
環境経営を目指す企業は、従来からある省エネ法の数値をしっかりと把握し、政府目標と呼応する自社の数値目標を掲げることから始めてみてはいかがでしょうか。
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