近年、様々な商品が値上げされていますが、その理由として「物流費の高騰」というフレーズをよく耳にします。この「物流費の高騰」の原因の一つとして考えられるのが、トラック輸送におけるコストの上昇です。
国内の輸送において主な手段はトラック、船舶、航空、鉄道がありますが、その中でも、トラック輸送は国内で輸送される荷物のうち約9割(トンキロ※ベースでは約5割)を担っています。そのため、トラック輸送のコスト上昇は即座に経済活動全体に対して大きな影響を及ぼします。トラック輸送の中にも更に、チャーター(貸切)便や宅配便、路線便等と様々な種類が存在しますが、今回は特定の種類のトラック輸送ではなく、トラック輸送全体において、なぜコストが上昇しているのか、またその上昇理由を踏まえたコストの削減方法をご紹介します。
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トラック輸送におけるコスト上昇の理由
トラック輸送におけるコスト削減方法をご紹介する前に、そもそもなぜ近年トラック輸送のコストが上昇しているのかを説明します。考えられる理由として、以下の3つが主要な要因となっており、それぞれ順を追って説明します。
- 人件費の高騰
- ドライバー不足
- 燃料費の高騰
人件費の高騰
トラック輸送におけるコスト上昇理由の1つ目は「人件費の高騰」です。ちなみに「高騰」と言っていますが、正確には「高騰」ではなく、「上昇」という表現が正しいでしょう。トラックドライバーの年間所得額(大型車:447万円、中型車:399万円)は全産業平均(490万円)と比較しても1割~2割程度安くなっています。その結果、ドライバーの新規採用に大変苦労しており、雇用維持のためにも給与水準を上げることが必須となっています。
過去には走れば走るだけ稼げていた時代もありましたが、現在では労働時間の制限や法規制の強化によりそれは叶わなくなりました。結果として、労働時間が短縮され、所得額が減少したわけですが、それに伴って人材の流出が発生し、新規流入者も減少しました。各社ともこれを阻止するための施策として給与をアップしています。これが人件費高騰(上昇)の理由です。もはや、人件費の上昇分は運賃に転嫁せざるをえない状況となっています。
ドライバー不足
2つ目の理由が「ドライバー不足」です。ドライバー不足の原因も複数ありますが、まずは先述した通り、「所得が少ない」という理由が挙げられます。
次に「中、大型免許所有者」の減少です。中型車とは主に4tベースの車両を指しますが、最も使用台数が多い車種です。この中型車は平成19年6月2日以降、普通免許での運転ができなくなりました。これにより若者の就職率が大幅に減少してしまったのです。この結果、全日本トラック協会等が申し入れを行い、平成29年に免許区分の改正が行われ、準中型免許が新設されました。しかしながら、この免許では2tベースまでしか運転できないため、宅配やコンビニエンスストアの配送に使用されている車両しか運転することができません。肝心の4t車は中型免許が必要となっているため、今でもハードルが高くなっています。大型免許については更にハードルが高い為、当面この2車種についてはドライバー不足が解消されないでしょう。
更に追い打ちをかけている原因は「ドライバーの高齢化」です。ここまで述べて来た様に、若年層のドライバーが不足していることから、既存ドライバーの高齢化が急速に進んでいます。特に大型車については、ドライバーの引退に伴い、減車や廃業をする企業も増加しています。この結果、市場のトラック台数自体が不足し、運賃が上昇しています。
燃料の高騰
3つ目の理由は「燃料の高騰」です。ご存知の通り、トラックの燃料である軽油もガソリン同様原油高の影響を受けて上昇しています。原因はOPECの生産調整、不安定な世界情勢、国内石油関連企業の競争原理減少などが挙げられていますが、いずれにせよ、不安定であることは間違いがなく、今後も大幅に下がることはなさそうです。燃料費については運賃にそのまま転嫁する場合と燃油サーチャージとして転嫁する場合が見られます。
トラック輸送のコスト削減方法
今までトラック輸送のコストが上昇した理由を説明させていただきました。ただ、工夫次第で輸送コストの削減を行うことは可能です。輸送コストの削減方法の案を3つ紹介します。
- 共同配送
- モーダルシフト
- 車両自動化と安全対策機能
共同配送
1つ目は「共同配送」です。何十年も前から提唱されてきた概念ですが、今までは期待されるほど推進されてきませんでした。どちらかといえば、物流会社側が様々な荷主の荷物を集めて、同一納品先に納めるという形が今でも一般的です。これについては共同配送というよりは「混載」といった方がしっくりするかもしれません。
近年まで共同配送が広まってこなかった理由は、多くの荷主企業が積極的に取り組もうとしなかったためです。特に大手企業については、商品情報がライバルに漏れてしまうことを恐れ二の足を踏んでいたと考えられます。
しかしながら、最近では単にコスト低減の為だけではなく、Co2削減などの環境問題対策としても共同配送に取り組む企業が増えてきました。今後も共同配送については徐々に増えていくと考えられますが、特に大型車を使用する幹線便において進んでいくのではないかと考えられます。大型車については先述した様に、コストの上昇と車両不足が深刻です。更には、2024年に予定されている労働時間の法改正により、車両不足に拍車がかかると推測されます。この様な状況で共同配送は「最も手をかけずに即座に取り組める現実的な対策」なのです。
さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください
モーダルシフト
2つ目は「モーダルシフト」です。モーダルシフトとはトラックの代替手段として鉄道や船舶を使用する方法です。鉄道については既にJR貨物のコンテナを使用した長距離輸送手段として利用されています。最大のメリットは一度に大量の荷物を輸送できることと、環境負荷が小さいことです。
一方で、この2つの手段についてはリードタイムが長くなるという問題と、同一輸送手段の中でコスト競争力がないという問題があります。さらに、集荷と納品時は積替えが発生してしまうことや、パレットで輸送すると積載率が落ちてコストと見合わなくなってしまう等の問題を抱えています。
鉄道や船舶が輸送手段として一層の普及を目指すのであれば、上記のような利便性やリードタイムの短縮を解決する必要があるでしょう。例えばリニア開業後に、現在の新幹線の一部を貨物線にしたりすると状況は変わるかもしれません。
鉄道コンテナ輸送を利用する際には、トラック輸送のコスト及びサービスレベルの比較を行った上で、メリットがある場合は積極的に利用しても良いと思います。
車両自動化と安全対策
3つ目は少し未来志向の話をしましょう。我が国において、このままではトラック輸送のコストは今後も下がることはありません。ドライバーの人口も高齢化とともに減少していくでしょうし、人件費も上昇していくでしょう。更に法規制も厳しくなっていくでしょう。物流業界におけるトラック輸送は苦境に立たされると推測されます。
現時点で、これらの問題を解決する方法が2つあります。1つは「車両の自動化」です。自家用車の完全自動化は着実に実現に向かって進んでいますが、トラックはもう少し先になりそうです。しかしながら、信号もなく、人もいない高速道路間を先行して無人走行できるようにすれば、大型の長距離ドライバー不足が解決されます。労働時間の問題も解決されるでしょう。国は積極的にメーカーへの支援などを含め、今よりも加速度的に、取り組んでほしいと思います。
2つ目は、より現実的な「トラック用安全対策機能の強化」です。既に自家用車にも導入されている各種の安全対策機能に増して、映像やAIを駆使した機能を追加することで、事故は大幅に防止できるはずです。そもそも現在の免許制度はトラック車両の事故多発が起因となっています。もし、事故そのものが限りなくゼロにできれば、誰でもトラックを運転できるようになります。その場合は免許制度も改正され、ドライバーがより身近な職種となることでしょう。
まとめ
今回はトラック輸送コストの上昇原因とコスト削減方法について述べてきました。しかしながら、「結局、即座に且つ容易にできる削減方法はないのか…」と思った方も多いでしょう。
残念ながら、これからもトラック輸送のコストは上昇し続けますし、その対策も実現にはハードルが高く時間がかかります。まさに、これが現実です。
従って結局、これらの対策が実現されるまでは、その状況に適合した工夫や改善を地道に実施していくしかありません。また、環境変化に柔軟に対応して行く体制や最新の情報を常に入手する必要もあります。
当社はこの様なお悩みを持ったクライアントに対して様々なコンサルティングを行っております。お困りの際には是非ご相談ください。
*本コラム内の用語
※トンキロ=貨物の輸送量を表す単位、貨物の重量(トン)とそれが輸送された距離(km)の積
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