政府目標である2030年にCO2 46%減(2013年比)、2050年にカーボンニュートラルの達成に向けて、バイオマス発電がますます注目を集めています。バイオマス発電は地球温暖化対策として有効であることに留まらず、地域の活性化や循環型社会の構築に大きく貢献します。その結果、地域の自然環境の改善も期待できる非常に優れた発電方式と言えます。
この記事では、バイオマス発電の仕組みやメリットについて解説します。バイオマス発電を通じて、再生可能エネルギーを自社へ導入することをお考えの企業ご担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
バイオマス発電とは
バイオマス発電とは、生物資源(バイオマス:Biomass)を燃やして発電する技術です。
国内で活用されるバイオマスには、木材や農林水産物の残さ、食品廃棄物、家畜排せつ物などがあります。バイオマス発電は、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料と違い、二酸化炭素を新たに排出しない「再生可能エネルギー」として扱われます。
バイオマス燃料の種類
国内のバイオマス発電所で使用されるバイオマス燃料には、下記のようなものがあります。
- 【一般木質バイオマス・農産物の収穫に伴って生じるバイオマス固体燃料】 製材端材、輸入材、剪定枝、パーム椰子殻、パームトランク
- 【間伐材等由来の木質バイオマス】 間伐材、林地残材
- 【メタン発酵ガス(バイオマス由来)】 下水汚泥・家畜糞尿・食品残さ由来のメタンガス
- 【農産物の収穫に伴って生じるバイオマス液体燃料】 パーム油
- 【建設資材廃棄物】 建設資材廃棄物(リサイクル木材)、その他木材
- 【廃棄物・その他のバイオマス】 剪定枝・木くず、紙、食品残さ、廃食用油、黒液
バイオマス発電の歴史
1970年のオイルショックを機に、発電が石油に依存している状態が明確に問題視されました。エネルギー供給安定の為に、エネルギー源の多様化を目指す中で、バイオマス燃料も注目を集めるようになりました。
しかし、バイオマス発電所の建設やバイオマス燃料の調達に大きなコストが掛かることから事業の採算が取れず、なかなか普及しない状況が長らく続いていました。1990年代より、地球温暖化に対策すべく二酸化炭素を始めとする温室効果ガス(GHG)の排出量削減が国際的な課題とされ、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーが再び注目を集めるようになりました。その流れの中で、再生可能エネルギーの一種であるバイオマスエネルギーも再び脚光を浴びることになりました。
国内では2009年に「バイオマス活用推進基本法」が制定され、さらに2012年から始まった「固定価格買取制度(FIT制度)」においてバイオマス発電が20年間の固定価格買取り対象となったことを受けて、バイオマス発電所の建設事例が近年増加しています。
国内の電源構成(エネルギーミックス)におけるバイオマス発電の位置付け
資源エネルギー庁の調査によると、2018年度時点での国内の電源構成(エネルギーミックス)における再生可能エネルギー比率は16.9%で、そのうちのバイオマス発電の割合は2.3%を占めています。
参照:資源エネルギー庁HP
政府は2030年度に向けて、再生可能エネルギー比率を36~38%に引き上げる目標を立てています。そのうちバイオマス発電は5%とされており、今後のシェア拡大が見込まれています。
参照:資源エネルギー庁 HP
バイオマス発電の仕組み
バイオマス発電は、バイオマスを燃やすことで水蒸気を発生させ、発電機のタービンを回すことによって発電する仕組みです。また、バイオマスを発酵させてバイオガスを作り、それを燃料として発電する方式もあります。バイオマス発電は、火力でタービンを回すという意味では火力発電の一種と言えますが、大きな違いは燃料の燃焼過程で新たにCO2を排出しないことです。
ここではバイオマス発電の3つの仕組みについて説明します。
直接燃焼方式
直接燃焼方式は、木材や可燃性の廃棄物、廃油などのバイオマス燃料をボイラーで直接燃焼することで、蒸気を発生させ、発生した蒸気を用いてタービンを回して発電する方法です。
直接燃焼により熱エネルギーの一部が排熱として失われることから、発電効率が低下する難点はありますが、システムが簡易的で比較的手軽に導入しやすいことや、幅広い燃料に対応できるなどの利点があります。
熱分解ガス化方式
熱分解ガス化方式は、バイオマス燃料をそのまま燃やすのではなく、原料を熱分解させることで発生したガスを用いて、タービンを回して発電する方式です。
水分を含んだバイオマス燃料を一度ガスに変換することで、 直接燃焼方式よりも燃焼温度が高くなること、また、固形燃料をフィードする必要が無く火災や爆発のリスクが低いことから、安定した発電が行えます。
生物化学的ガス化方式
下水の汚泥や家畜の糞尿をメタン発酵させ、発酵によって発生したバイオガスを用いて、タービンを回して発電します。
汚泥や糞尿などの水分量が多く、燃焼させづらい資源の有効活用が出来ること、廃棄物などの再資源化が可能にすることが特徴です。
バイオマス発電の事例
資源エネルギー庁の調査によると、2022年9月末で783件・約530万kWのバイオマス発電所が稼働しています。(FIT制度を利用した発電所のみの集計)
ここでは、国内で稼働しているバイオマス発電所のいくつかの実例をご紹介します。
事例①宿毛バイオマス発電所
【使用するバイオマス燃料】 木質チップ(木材の未利用部位、樹皮、製材過程で発生する廃材)
【発電出力】 6,500kW
【年間発電量】 4,500万kWh(一般家庭約1.3万世帯分の年間消費電力量に相当)
株式会社グリーン・エネルギー研究所が運営する高知県宿毛市の「宿毛バイオマス発電所」では、森林率84%を誇る高知県という立地を活かし、木質チップのバイオマス燃料を利用した発電事業を実施しています。
木質チップの原料としては、これまで建築用材として利用されず廃棄されてきた木材の未利用部位や、樹皮、製材過程で発生する廃材を利用しています。
発電事業と並行して木質ペレットも製造し、一般家庭や農業用ビニールハウスの暖房熱源として提供しています。この発電事業により地域の森林環境を保全しつつ、山間地域での雇用の拡大を目指しています。
参考: 株式会社グリーン・エネルギー研究所
事例②ビオぐるファクトリーHANDA
【使用するバイオマス燃料】 バイオガス(牛ふん尿、事業系一般廃棄物、産業廃棄物、廃食品、廃飲料を発行させたメタンガス)
【発電出力】 800kW
【年間発電量】 未公表
愛知県半田市の「ビオぐるファクトリーHANDA」では、半田市のバイオマス産業都市構想の実現のため、家畜ふん尿や動植物性残渣等の廃棄物を原料にしたバイオガス(メタンガス)による発電事業を行っています。
発電燃料として使用されるバイオマス資源は、市内の牛ふん尿とその周辺地域の食品残渣やコーヒーかす、廃食品・廃飲料などで、食品リサイクル率の向上にも大きく寄与しています。
さらに、発電を行う際に発生する排熱・排ガスを隣接するトマトなどの植物工場へ供給し、植物育成促進用の熱源として再利用しています。
参考: 株式会社ビオクラシックス半田
事例③ひびき灘石炭・バイオマス発電所
【使用するバイオマス燃料】 木質ペレット・木質チップ(石炭混燃)
【発電出力】 112,000kW
【年間発電量】 8億1,600万kWh(一般家庭約23万世帯分の年間消費電力量に相当)
福岡県北九州市の「ひびき灘石炭・バイオマス発電所」は、木質ペレット・木質チップからなる木質バイオマス燃料を石炭と混合させた燃料で火力発電を実施しています。
熱量ベースで、最大約30%のバイオマスを石炭に混焼できる発電設備を採用していることから、火力発電の懸念点であるCO2排出量の低減につながる高効率の発電が期待できます。
化石燃料の中でも経済的に有利であり安定供給が可能な石炭と、バイオマス燃料の中でも安定して確保することが可能な木質ペレット・木質チップの組み合わせで、再生可能エネルギーを利用した「ベース電源」として現在の社会情勢のなかで現実的な回答を出しています。
参考:響灘エネルギーパーク合同会社
バイオマス発電のメリット・デメリット
バイオマス発電は、地球温暖化対策として有効であることに留まらず、地域の活性化や循環型社会の構築に大きく貢献します。
しかし、燃焼によって得られる熱量が小さく発電効率が悪いことや、バイオマス資源の安定確保に課題があるなどのデメリットもあります。
ここではバイオマス発電のメリットとデメリットを整理し解説します。
バイオマス発電のメリット
メリット①相対的に安定した再生可能エネルギーとして導入できる
バイオマス発電は、太陽光発電や風力発電といった気象条件などの自然要素に左右される不安定な電源とちがい、燃料さえ安定して確保することができれば一定の発電量の継続が見込めます。
そのため、再生可能エネルギーのなかでも変動が少ない「ベース電源」としてシェアの拡大が期待されています。
メリット②FIT・FIP制度を利用した売電が可能
バイオマス発電は、再生可能エネルギーとしてFIT・FIP制度を利用した売電が可能です。
普及を促進するために太陽光発電や風力発電よりも概ね高単価での買取りが維持されており、発電事業の採算が取りやすくなるように配慮されています。
FIT・FIP制度については以下のコラムで詳細に解説していますので、ご覧いただけますと幸いです。
【バイオマス発電のFIT買取価格推移】 単位:円
年度 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1. | 39 | 35 | ||||||||||
2. | 32 | |||||||||||
3. | 32 | 40 | ||||||||||
4. | 24 | 21 | 入札により決定 | |||||||||
5. | 24 | |||||||||||
6. | 24 | |||||||||||
7. | 24 | 入札により決定 | ||||||||||
8. | 13 | |||||||||||
9. | 17 |
- メタン発酵ガス(バイオマス由来) 20年間
- 間伐材等由来の 木質バイオマス(2,000kW以上)20年間
- 間伐材等由来の 木質バイオマス (2,000kW未満)20年間
- 一般木質バイオマス・農産物の収穫に伴って生じるバイオマス固体燃料(20,000kW以上) 20年間
- 一般木質バイオマス・農産物の収穫に伴って生じるバイオマス固体燃料(10,000kW以上) 20年間
- 一般木質バイオマス・農産物の収穫に伴って生じるバイオマス固体燃料(10,000kW未満)20年間
- 農産物の収穫に伴って生じるバイオマス液体燃料 20年間
- 建設資材廃棄物 20年間
- 廃棄物・その他のバイオマス 20年間
【参考:太陽光発電のFIT買取価格推移】 単位:円
年度 \ 対象 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1. | 40 | 36 | 32 | 27 | 24 | 21 | 18 | 14 | 13 | 12 | 11 | 10 |
2. | 12 | 11 | 10 | 9.5 | ||||||||
3. | 42 | 38 | 37 | 33 | 31 | 28 | 26 | 24 | 21 | 19 | 17 | 16 |
- 事業用太陽光(10kW以上50kW未満)20年間
- 事業用太陽光(50kW以上入札対象外)20年間
- 住宅用太陽光調達価格(10kW未満)10年間
参照:資源エネルギー庁 HP
メリット③廃材などを資源として有効活用できる
バイオマス発電では、製材工場の端材や山林の間伐材などの木質バイオマス、家畜の糞尿や生ゴミなどの廃棄物を燃料資源として有効に活用できます。
燃料の調達コストや輸送コストをなるべくかけずに発電を行うためには、木材端材や間伐材であれば製材事業者が多く集まる山林地域に、パーム油やパーム椰子殻などの輸入材であれば港湾地帯に、といったかたちでバイオマス燃料の調達地の近くに発電所を設置するのが理想です。
メリット④地域の環境整備や活性化につながる
いままで活用されてこなかった廃棄物などを燃料とするバイオマス発電は、廃棄物のリサイクルや減少につながります。
サスティナブルな地域社会を構築するのに大きく寄与し、エネルギーの地産地消による地域の活性化につなげることも可能です。
バイオマス発電のデメリット
デメリット①バイオマス燃料の安定供給に課題
バイオマス燃料は一般的に安定的な確保に難点があるとされます。
また、燃料の種類が排泄物や食品残渣である場合などは悪臭や害虫の発生を抑制する対策も必要で、その保管場所の確保も課題となります。
バイオマス燃料の供給が不安定な場合は、化石燃料である石炭と一緒に燃焼させる「混合燃焼」の手法を取り発電量を安定させる手法が取られる場合もありますが、再生可能エネルギーの促進という側面で考えると、効果が薄れてしまいます。
デメリット②発電効率が悪く高コスト
バイオマス発電は燃料の燃焼温度が低いため、一般的な発電効率は約20%とされています。
水力発電の80%、火力発電の55%と比較すると発電効率が低く、発電量を増やすためには大量のバイオマス資源が必要となります。
大量の資源収集・調達コストと輸送費、資源の管理・保管費用を考慮すると、従来の火力・水力発電所よりも発電量当たりのコストは高くなってしまう傾向があります。
まとめ
ここまで、バイオマス発電の仕組みやメリット・デメリットについて解説してきました。
エネルギーの地産地消が可能になり、循環型の地域経済の構築にも大きく寄与する可能性のあるバイオマス発電は、サスティナブルな社会の実現に向けて、今後大きな役割を担うことが期待されています。
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