本記事は、「倉庫/物流センターの生産性改善プロジェクト」(前編)の続きとなります。
▼前編はこちらから
この記事では倉庫/物流センターの生産性改善の計画策定からクロージングまで解説します。
SCM/3PL/物流のお悩みを解決したい方へ
プロレド・パートナーズでは、現状把握から施策の立案・実行まで一貫したサポートが可能となります。SCM改善について皆様からのご相談をお待ちしております。
計画策定
プロジェクト期間は4か月以内、アクション計画は1週間以内が必達
プロジェクトの計画策定もプロジェクト・ゴール同様にステアリングコミッティ(社長や担当役員)と関係者に対する約束であり合意事項です。プロジェクト計画には、「全体スケジュール」とその中での個別の施策をアクションレベルにまで落とし込んだ「アクション計画」があります。
プロジェクト計画
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定義
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全体スケジュール
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プロジェクト全体のスケジュール(4ヶ月以内)
及び、プロジェクト内の個別の実施施策(現状把握、改善トライアル等)の内容とその期限を明確にしたもの |
アクション計画
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実施施策に関して、更に現場ごとに実際「誰が何をやるのか」が明確なアクションレベルにまで落とし込んだもの
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全体スケジュールは、プロジェクトスタート前にプロジェクトマネージャー(以下「PM」と称する)を中心に主要メンバーで作成します。計画している個別の施策を順次、スケジュールに落とし込でいきましょう。
ここでのポイントは、個別の実施施策をダラダラと継続させることなく、完了期限を設定することです。今回の倉庫/物流センターの改善はある程度絞り込まれたゴールと課題に限定しているため、目安としては4か月以内でプロジェクトをやりきります。
実施施策
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1か月目
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2か月目
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3か月目
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4か月目
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ゴール設定
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現状把握と課題分析
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定量的なKPIと責任者の設定
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アクションプラン策定と合意
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改善施策のトライアル実施
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作業方法の変更/修正
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効果測定(評価)と定着
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全体スケジュールは上記のように主要な実施施策に対して期限を設定し、プロジェクト内でPDCAサイクルをしっかり回し切るようにします。Plan(計画)は1か月目、Do(実行)が2か月目~3か月目、Check(評価)とAction(改善)は4か月目といったように組み立てます。アクション計画は、プロジェクト開始後、現状把握と課題分析を通して改善点を明確にしていきます。
プロジェクトのゴールが「EC出荷キャパシティの増加」の場合を事例として下記に紹介します。作成のポイントは、個別のアクションがそれぞれ1週間以内に完結する単位まで細分化することです。
現状把握とアクション計画の事例
プロジェクトのゴールが『ピッキングチーム:EC出荷キャパシティの増加』の場合
【現状把握と課題分析】
a. ピッキング作業の指示書(以下、ピッキングリストと表記)1枚分の作業内容を完了させる時 間が作業担当者によって異なる
*作業が速い方:30分で完了、作業が遅い方:55分で完了
b. ピッキングエリア内の特定の場所にピッキング作業者が集中し、後から来た作業者は先に作業を開始した作業者の作業完了を待つ時間が発生している
c. ピッキング作業者がピッキング対象商品の保管場所に到着後、複数ある箱の中から商品を探すことに時間がかかっている
さらに、”a.”の内容をより詳細に分析
a-1. ピッキングリストごとに、ピッキングをする数量にばらつきがある
*少ない場合:30ピース/多い場合:65ピース
a-2. ピッキング作業の熟練者は作業時間が短く、新人は作業時間が長い傾向にある
a-3. 新人作業者は1つの作業工程終了後、次の作業工程に着手するまでに時間がかかる
【アクションプラン 例】
a-1. ピッキングリストごとの合計ピッキング数量を平準化する
① 1枚のピッキングリストの“最適な基準数量”と“上限数量”を設定
② 最適な数量でピッキングリストが出力されるシステム仕様を検討
③ IT担当部署/外部ベンダーへWMS(倉庫管理システム)の改修依頼と開発
④ トライアル施策の実施とその効果測定
⑤ 新しいピッキングリストの導入と本格展開
a-2. ピッキングリストに作業の難易度を設定し、作業者の熟練度に合わせて担当を割振る
① ピッキングリスト難易度の設定(数量の多さ/SKUの多さ/作業エリアの広さ)
② 難易度別に熟練者と新人の作業生産性を比較し、担当割ルールを設定
*難易度が高いピッキングリスト:熟練者 / 難易度が低いピッキングリスト:新人
③ トライアル施策の実施とその効果測定
④ ピッキングリストの難易度管理の導入と本稼働
a-3. ワンポイントマニュアルを作成し、ピッキング時に携行する
① 新人が作業中に手を止めてしまう作業工程を抽出
② 抽出した作業工程の写真を撮影
③ ワンポイントマニュアルの作成
④ トライアル施策の実施とその効果測定
⑤ ピッキングカートへワンポイントマニュアルを設置
アクション計画の策定に要する時間は、内容によってチームごとで差が発生しますが、全体スケジュールの期限内であればチームごとのペースで問題ありません。ただし、必ず全体スケジュールで定めた期限内に策定を終了する必要があります。アクションプランは具体的な内容が多いため、プロジェクトの途中で随時、加筆、修正を行います。
上記のアクション計画にはシステムの改修など投資判断が必要となるケースもあるため、アクション計画についてもステアリングコミッティ(社長や担当役員)へ説明し合意を得るようにします。投資が必要となる場合は(経費程度でも)、早めに概算金額を算出し報告します。
コミュニケーション計画
必ず定例会を開催し、欠席や延期は厳禁!!
コミュニケーション計画とは、物流改善プロジェクトを遅延なくゴールへ向かわせ、ムダなコミュニケーションを無くす目的で行います。ムダなコミュニケーションとは、プロジェクトの推進に必要ではない資料の作成や報告、共有、確認の重複を指します。
コミュニケーション計画の最初は定例となる会議体の設定です。予め会議体を設定しておくことにより、会議開催の調整業務から解放されます。設定しておく内容は、「出席者」「アジェンダ(当日討議すべき項目)」「開催頻度/日時」「開催場所」「会議中の役割分担」「討議資料」となります。
一般的な会議体の設定(例)
➀ ステアリングコミッティ(社長や担当役員)への進捗報告会
出席者 :ステアリングコミッティ、PM、PMO、プロジェクト・リーダー
アジェンダ:全体スケジュールに対する進捗と課題報告
頻度と時間:月に1回、1~2時間 *経営職の参加を求めるため事前に日時設定をします
資料 :報告資料(進捗と課題のサマリ及びトピック)
② プロジェクト進捗MTG
出席者 :PM、PMO、プロジェクト・リーダー、プロジェクト・メンバー
アジェンダ:アクション計画に対する進捗と課題報告
頻度と時間:週に1~2回 1時間 *月曜日と木曜日に行うことが理想です
資料 :アクション計画、課題管理表、KPI
③ チームごとの分科会
出席者 :プロジェクト・リーダー、プロジェクト・メンバー、(PM/PMO)
アジェンダ:アクション計画の実行方法の協議
頻度と時間:週に1~2回 30分
資料 :アクション計画、課題管理表、KPI、分析資料等
PMに与えられている権限にもよりますが、多くの場合、投資などの意思決定時はステアリングコミッティの判断を仰ぐことが多いため、①の進捗報告会を開催していれば、スムーズに決裁が得られます。報告用にパワーポイントの資料もある程度フォーマット化して構いませんが、内容は物流業務への関与が少ない方でも分かるように丁寧に作成します。
② プロジェクト進捗MTGはプロジェクトの要であるため、毎週開催します。各チームリーダーからPMへの進捗報告が主となりますが、重要な課題についての意思決定も行います。遅延の発生する可能性があるアクションについて、その課題管理を行います。アクション計画作成時には想定できていなかった細かなアクションも記載し、漏れや不足が発生しないようにします。
③ チームごとの分科会は週次で開催します。チームリーダーが作業リーダーや事務員から選任することが多く、プロジェクトに慣れていないことが想定されます。進捗管理や関係者の巻き込みが不十分となる可能性があるので、そのリスクを分科会の設定により低減します。
設定した会議体では繁忙による会議の延期や欠席を許さない姿勢で臨みます。1回の会議延期が2回目、3回目の延期を引き起こし、4か月という短期プロジェクト内で完了できません。延期はもちろんのこと、ひとりのメンバーの欠席でも決定や確認事項が滞ることがあります。
また、② プロジェクト進捗MTGでは、IT関連メンバーなどが通常の勤務場所が現場から離れている場合は、Web会議などを利用しましょう。ただし、現場での進捗確認も重要となりますので、隔週程度で現場での打合せが理想です。
会議体以外のコミュケーションについては、メールやチャットなどが有効です。プロジェクトごとに時系列で追いかけやすいチャットは、情報共有に向いています。チャットは、スマートフォンのアプリからも容易に更新が可能で写真のアップロード等も行いやすいため、PCを持たないメンバーともコミュケーション頻度を高めることに有効です。
キックオフMTG
キックオフMTGは“経営層向け”と“プロジェクト・メンバー向け”で2度開催
次の4つのアウトプットが作成できたタイミングでキックオフMTGを行います。
【キックオフMTGにて合意形成すべき事項】
1.プロジェクト体制
2.プロジェクト・ゴール
3.プロジェクト計画(全体スケジュールのみ)
4.コミュニケーション計画
また、キックオフMTGは、「A. ステアリングコミッティ(社長や担当役員)向け」と「B.プロジェクト・メンバー向け」との2回実施します。「A. ステアリングコミッティ(社長や担当役員)向け」キックオフMTGでは、策定した上記1から4について合意し、プロジェクトの方向性と必要となる人的リソースの確保について約束を取り付けます。さらに、ITシステムや倉庫内設備の投資に関しても、必要性に応じてステアリングコミッティへ検討を依頼する旨を事前に伝えます。
一方、プロジェクト・メンバーからは、経営陣に対してゴールとその期限を宣言します。改善活動に着手する前に、経営陣に対して目標/成果について宣言するのは抵抗がありますが、物流改善を行えば必ず成果は出ます。特に倉庫改善の場合は、人が中心となるため5Sと倉庫スタッフの動機付けだけでも生産性が上がることがあります。PMとプロジェクト・リーダーはこのことを理解し、“成果は必ず出る”という前提に立ってキックオフMTGを実施しましょう。
期限に対するコミットメントとしては、最終期限だけでなく、全体スケジュールにおいてどのタイミングでどのような成果を想定しているのかも説明します。進捗報告の内容を予め明確にしておくことで、プロジェクトの途中で予定外の報告を求められたり、成果を即されたりすることを抑えます。
プロジェクト・メンバーとのキックオフはモチベーションUPを最優先
次に「B.プロジェクト・メンバー向け」キックオフMTGは、「A. ステアリングコミッティ(社長や担当役員)向け」キックオフMTGの開催後に実施します。
全体スケジュールの修正やプロジェクト・ゴールへの追加要望などを反映させて、プロジェクトの全体像をプロジェクト・メンバーへ共有します。プロジェクトに選ばれたこと自体に戸惑いをもっているリーダーやメンバーがいるため、不安要素の解消に加えて、プロジェクトへのモチベーションを高めることを意識して会議を進行します。「B.プロジェクト・メンバー向け」キックオフMTGでケアすべき点は、プロジェクトに乗り遅れるメンバーを作らないことです。
キックオフMTGに参加しているメンバーは間違いなく本プロジェクトの主要メンバーであり、同時に倉庫業務の中核を担っています。プロジェクト開始前からリーダー格であっても、改善プロジェクトに対し全員が前向きとは限りません。
キックオフMTG前の各リーダーのプロジェクトに対する思い(例)
甲さん:元々ゴールに対する課題を認識していて、意義を理解しプロジェクトに前向き
乙さん:課題に対して事前の認識はないが、プロジェクトの今後に興味がある
丙さん:プロジェクトとは別の課題認識を持っており、プロジェクトの優先度を下げている
一見、「丙さん」だけをケアすれば良いように見えますが、キックオフMTGの中でも各リーダーの立ち位置やモチベーションは変化します。初めてのMTGで全員を動機付けすることは難しいですが、リーダーそれぞれの考えや思いを理解しようと努めることが大切です。
課題とその解決に向けた進捗管理
課題解決に向けたToDoのリードタイムは1週間以内で!
プロジェクトの開始後に継続的に利用するのは、「課題管理表」と「アクション計画」の2つです。「課題管理表」では、発生した課題の解決まで管理し、「アクション計画」では改善アクションの進捗を確認します。プロジェクト管理には多くの管理ツールがありますが、誰でも簡単に利用できる「課題管理表」と「アクション計画」による進捗管理の2つあれば十分です。
アクション計画による進捗管理の3つのポイント
1.アクションを開始予定日に着手できそうか?(必要となる備品等の準備が出来ているか等)
2.アクションの開始予定日に着手できたか?
3.アクションを期限までに完了できるか?(KPI数値が取得できているか等)
特に開始予定日については、着手の遅延がプロジェクト遅延に直結してしまうため、着手に必要な備品や環境について課題管理表へリストアップし、その手配状況も確認します。
課題管理表の項目ひとつひとつは、1週間以内に実行できる単位まで細分化することが重要です。改善アクションは日々の実務の中で実施する必要があるため、取り組める業務量に制限があります。課題が多すぎる場合は、PMとチームリーダーにより優先順位を見直し、対処すべき課題を絞り込みます。
アクション計画の進捗を早い段階から徹底して管理することで、課題の早期発見が可能です。簡単に解決が見込める課題であっても、必ず記載して進捗を追いかけます。課題管理表は解決のきっかけを作るだけでなく、忘備録の役割も果たします。課題管理表を正しく運用すれば、会議ごとで議事録(メモ)を作成する必要が無くなります。課題管理表に記載した課題やそのアクション計画について、PMはそれぞれの難易度を早期に評価し、重要度や難易度ごとに対応方針を変更していく必要があります。
個別課題に対する評価と対処方法(例)
a. プロジェクト・メンバーにより1週間以内に解決可能
b. プロジェクト内でプロジェクト期限内に解決可能
c. ステアリングコミッティ(社長や担当役員)へ報告し、追加リソース(人や投資)が必要
d. プロジェクト内での解決が難しく、保留又は回避
PMとチームリーダーは、プロジェクト・メンバーと上記“a”に関する検討に十分な時間を割きます。“b”~“d”に対しては必要以上に時間をかけることが無いように優先順位を明確にします。
“a”に分類される課題が解決された場合は、上記“b”にも着手します。その場合、“b”の課題を極力細分化して、複数の“a”レベルの課題にできたものは、そのアクションの進捗管理をしていきます。
成果(可視化)とクロージング
どんな結果であっても“成功”と評価し、改善度合いはKPIで客観的に定量化
最後にプロジェクトを無事完了させるには、その成果をしっかりと可視化しなければなりません。
チーム・ゴールの中で設定したKPI数値を元に、プロジェクトの成果を“定量的に見える化”しましょう。
ここでのポイントは、ゴール目標を達成したチームだけを成功とするのではなく、実質的な着手前からの改善度合いも評価に取り入れます。ステアリングコミッティ(社長や担当役員)への最終報告会において、KPIの改善結果はプロジェクトの約束に対する回答となります。“目標の達成度”だけでなく、“着手前からの改善度”という視点から表現を工夫し、“物流改善プロジェクトの成果/成功度合い”を精一杯アピールしましょう。
また、プロジェクト・メンバーや積極的にプロジェクトへ参加した作業者に対しては定性的な評価も行い、物流改善プロジェクトを成功体験として認識されるようにします。最終報告会にて最初の物流改善プロジェクトは終了を迎えますが、PMは後続のプロジェクトへと意識を向け、関係者のモチベーション維持を図ります。
終わりに
物流改善プロジェクトの中心となるのは“人”です。人に変化を求めることであり、人が変わらなければ改善の成功もあり得ません。プロジェクトを経験した人のモチベーションが向上し、意識と行動が変われば倉庫の中は見違えるように改善します。
人に変化を求めることは簡単なことではありません。しかし、物流改善プロジェクトと継続的な改善活動で成果を得るためには、人を中心にプロジェクトを進めていくことが必要です。成功を体験したプロジェクト・メンバーは次のプロジェクト・リーダーになりPMとなります。本コラムを読んで頂いた皆様が物流改善プロジェクトで成功体験を積み重ね、物流現場に改善活動が根付いていくことを祈念します。
*本コラム内の用語
KPI(Key Performance Indicator)=目標に対する評価指標
PDCA(Plan Do Check Act)=計画、実行、評価、改善というプロセスのサイクル
PM(Project manager)=プロジェクトをゴールへ導くためのマネジメントと管理を行う
PMO=進捗(工程)管理などPM業務に対し詳細なサポートを行う
PMBOK=プロジェクト・マネジメントの知識を体系化したもの
ppm(Point per million)=100万個(回)当たりの発生個(回)数
SKU(Stock keeping unit)=倉庫内で管理すべき最小管理アイテム単位
WMS(Warehouse management system)=倉庫管理システム
ステアリングコミッティ=利害関係者又は関係者が参加する会議体(経営層などを指すことが多い)
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